子平の格局のありように一番詳しい文献は、徐大昇の『子平三命通変』の『百章歌』にあり、筆者はこの書物に明澄透派『子平大法』の源流を見ることができましたが、現代の子平は、明らかに『百章歌』に書かれている文章を正確に解釈できなかったことに大きな原因があると筆者は考えています。
筆者の子平の原典研究で一番感動したのが、この『百章歌』であり、これを読めば誰でも明澄派の子平に辿りつけると想いました。なぜなら、あらゆる命式の解釈が詩という形でストックされているからです。そこには、まさに経験によって導き出された子平の純粋でありのままの判断が書き残されているのです。
そして、この『百章歌』の格局の見方には、すべての子平の見解が集約されているからです。特に議論の的になっている「傷官傷尽格」というものは、確かに原典にもありません。しかし、傷官傷尽という状態の命式は、確かに存在します。しかし、これは筆者が子平の「傷官格」において発見した歴史的大発見であるといってもよいものですが、このブログが発表の場になるとは想いませんでした。これを論点に原文を紹介しましょう。
傷官歌
傷官傷盡最為奇 尤恐傷多返不宜 此格局中干変化 推詳須要用心機
火土傷官宜傷盡 金水傷官要見官 木火見官官要旺 土金官去返成歓
惟有水木傷官格 財官両見始為歓
傷官不可例言凶 辛日壬辰寶在中 生在秋冬多秀気 生於四季土財豊
丙火多根土又連 或生申月或生亥 但行金水升名利 火土重来数不堅
惟有木運東方地 無栄無辱度流年
傷官不可例言凶 有制還他衣禄豊 干上食神支帯合 児孫蒲眼壽如松
傷官遇者本非宜 財有無官此福基 時日月傷官格局 運行財旺貴無疑
傷官傷尽最為奇 若有傷官貴便随 特己凌人心好勝 傷刑骨肉更多悲
傷官傷尽は、もっとも奇と為す、尤も傷多を恐れ、返って宜しからず、この格局中に干が変化する、推詳須らく要す、心機を用いよ。
火土の傷官は傷尽が宜しい、金水の傷官は、見官を要す、木火は官を見て官が旺じるを要す、土金は官が去ることが返って歓びと成す、惟有り水木の傷官格は、財官ふたつを見て始めて歓びと為す。……(省略)。
傷官傷尽というのは、傷官見官にならない命式のことであるようです。つまり、傷官格で正官が命式にあると傷官が正官を傷つけることになるからです。ここでは特に火土傷官は、傷官傷尽がよいといっております。火土傷官とは、丙己、丁戊の関係ですが、丙己壬、丁戊壬の関係が傷官見官と呼ばれるものですが、このような関係にならない命式を傷官傷尽という、つまり、命式に傷がまったくない命式を指しているようです。傷官傷尽が奇と為すとは、奇とはめずらしいことを指し、特殊な才能を持つ人を象徴しております。まさに貴とは社会性とともに共存していきますが、奇はまさに社会において特殊なその人にしか表現できないオリジナルであるといえます。
その他の傷官は次のように判断しております。
金水の傷官は丙火、丁火を必要とします。命式が寒くなるためです。(丙庚癸、丁辛癸)
木火の傷官は官があって官が強いこと。木生火の命式なので、木を金で裁断した方が燃えやすくなるためです。(庚甲丁、辛乙丁)
土金の傷官は、命中にある官が去ったとき、歓びとなると書かれています。(戊辛甲、己庚甲)
水木の傷官は、財と官のふたつがあることが歓びになると書かれています。(丙壬乙戊、丙癸乙己)この部分に関しては、明澄透派の『子平大法・心得』にも同じような見解があります。
注目すべきは、「傷官不可例言凶」の傷官はたとえて凶と言うべからず。傷官だけをたとえて凶命であるということを言ってはならないと述べています。命式の傷官というのは、最初の判断にあるように干の組み合わせによって変化するので、心機を用いよ(つまり、知恵を働かせなさい)と『百章歌』の作者が述べています。傷官といった象徴のみで、ただ命式にあるから凶と言うような愚かな判断をしてはならないという子平の教誡といえるでしょう。一般の日本の四柱推命は、このように傷官という象徴だけで判断を下しており、命式における天干や地支との関連を無視した見方であります。傷官にもいろいろな多様性があるのですよと『百章歌』は説いているのです。
辛日で壬辰がある命式も良いと言っております。秋冬の生まれならば、秀気(優秀である)が多く、土用に生まれていれば、財が豊かであるとしています。(これは、イチロー選手の命式に当たる)イチロー選手の命式は従児格でありますが、傷官格という立場で見たときも傷官傷尽の命式ということができます。
壬辛壬癸 辰卯戌丑
傷官傷尽にならない場合の命式、つまり、傷官見官になった悪いケースの命式の解釈は、最後の歌に書かれています。弱いものいじめをする人で、常に勝ちを好み、肉親や親しい人と争いが絶えず、悲しみが多いとしています。(甲丁辛)(癸甲戊)
傷官格やその他の『百章歌』の格局の詳しい解釈は、出版予定の『子平三命通変』で発表しようと思っております。